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季節は夏、それはバカンスである。 鏡の前に無防備に座ったゼシカは、その両手にそれぞれ色違いの小さな布キレを持っていた。 それはよく見ると、紐やらレースやらが付いている水着だということがわかる。 彼女は鏡にそれを宛がったり、覗き込んだり、真剣な顔つきで審美しているようだ。 そこでノックの音がするが、ゼシカは全く気が付かない。 「うっす、もう着替えたか?」 ノックから少し経ってククールが扉を開けて入ってきた。ゼシカに用事があるらしい。 「それがまだなのよ」 彼女はククールが部屋に入ってきてから一度も鏡から目をそらしていない。 「そうか、手が空いてたら日焼け止め塗ってもらおうと思ったんだ。ほら、オレの美しい身体が焼けたら困るだろ?」 「んーどっちにしよう…」 彼女はまだ吟味しているようで、その言葉はすっかり耳に届いていないようだ。 「水着が決まらないのか」 無視に耐えかねゼシカの顔をひょいと覗き込むと、ククールはその手から水着をすっと抜いた。 もう!と抗議の声が聞こえるが、曖昧に返しておく。 「どうかな、スポーツ系の可愛いのと、ちっちゃい感じのビキニなんだけど」 どうやらコメントを求めているようだ。 「どっちがスポーツでどっちがちっちゃいんだ??」 ククールもいくら女性に詳しくてもこの見分けは付かなかった。 「紐が付いてるのがビキニの方なの」 ゼシカはククールの右手に下がっていた黒い布を引く。 正直、露出が高ければ高いほど嬉しいのだが。この両者には布の面積に差異はなさそうだ。 どんな格好で泳いで欲しいだろうか。彼はそれを考えて結論を導き出そうとする。数秒経つ。 「そうだな………髪ブラか手ブラなんてどうかな」 ククールは布を手から下げつつ真面目な顔で言った。 「か…みぶら…? こっ、この馬鹿男お!!!」 肩を強かに打たれたククールは少しよろめく。 「あーもう早く決めないと日が暮れるぅ~」 どうやら癖のようだが、ゼシカは頭を抱えるとき結った髪の付け根を掴む。 そのまま頭を揺らす動作は子供っぽくてかわいいなあ、とぼんやり見ているククールだった。 それはバカンス、そしてロマンスである。
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クラビウス王が公式にエイトをミーティア姫の許嫁だと認め、チャゴス王子との婚約が白紙となった段階で、近衛隊長のエイトがトロデーン王家に婿入りするであろう事は公然の事実として世に広まっていた。 しかし、そこから先に話は進んではいなかった。 当のエイトが、婚儀を執り行うには時期尚早であろうとトロデ王に進言をしたのである。 自分はサザンビーク王家の血を引く者であっても、その王子として育ってきたわけではない。 なりゆきで近衛隊長の肩書きを戴きはしたが、茨の呪いで時を止められていたトロデーン国民にこの昇格は青天の霹靂であろうし、どうあれ自分は一介の家臣にすぎない。 王位継承者たるミーティア姫の夫となるには、世間の誰もが認める「何か」が必要でありましょう、と。 「おぬしは…暗黒神を滅した英雄、というだけでは物足りないと申すか?」 トロデ王の問いにエイトは頷き、話を続けた。 「竜神族の里に参りました折に、竜の試練なるものがあると聞き及びました。つきましては、仲間と共にその試練に挑みたく存じます」 「なるほどのぅ」 「竜の試練を完遂致しました暁には、国王陛下と内親王殿下のもとに改めてご挨拶に伺わせていただきます」 こうして、暗黒神を倒した後も四人の英雄達は、竜の試練の為に日を決めてトロデーン城へと集う事になっていた。 「ミーティア姫も色々と振り回されて大変よね」 ゼシカはミーティア姫の部屋を訪れていた。 ミーティアが、ゼシカがトロデーンを訪問した際には是非とも自分の部屋を訪ねて欲しい、と希望していたのだ。 同じ年頃である二人の話は尽きることがない。 竜の試練についての話に始まり、美容のこと、美味しいお菓子のこと、面白かった本のこと、市井で流行しているもののこと。 そして、恋愛の話。 「呪いが解けてからも、確かに色々ありましたけれども」 ミーティアはピアノを弾く手を止め、話を続けた。 「今はエイトが納得できる時まで待っていればいいんですもの。辛くはありませんのよ」 「そっか。それなら良かったわ」 そう答えるゼシカの表情がほんの僅かばかり曇ったのをミーティアは見逃さなかった。 「…もしかして、ククールさんと何かありましたの?」 ゼシカはハッとした後、苦笑して顔の前で手をひらひらとさせた。 「まぁ…いつもの事だわ」 「いつもの事って…」 「こちらに来る時に何となく窓から中庭を見たら、ククールがまた女の子に言い寄っているのが見えたの」 「まぁ!そんなことが…」 ミーティアは大きな目を見開く。 「ククールさんらしいと言えばいいのかしらね」 そう言ってクスクスと笑い始めた。 「姫様ぁ、笑うなんてひどい!」 ゼシカは頬を膨らませて抗議する。 「それでそれで?」 ゼシカの抗議にも関わらず、ミーティアは瞳を輝かせながら話の続きを促した。 「…それだけ」 「あら、メラゾーマとかはなさらなかったの?」 ミーティアはさらりととんでもない事を口走る。 「さすがに三階からは距離が…って、いや、そんなことじゃなくって」 ゼシカは自らの発言に突っ込みを入れてから話を続けた。 「えっと…最近、何だかそっけない感じがするの。そのくせ他の女の子には変わらずあんな風で…」 「寂しいのでしょう?」 …図星だった。 ゼシカは驚いてミーティアを見、直後に視線を逸らして話を続けた。 「旅してた時は結構親しくなれたかもって感じてたんだけど、それって私の思い込みだったのかな?なんて思うの…」 「喧嘩したわけではないのでしょう?」 こくっ、と、ゼシカは無言で頷く。 「それなら大丈夫だと思いますわ」 ミーティアは自信ありげに微笑んでそう言った。 「わたくし、こう思うんですよ」 暫しの沈黙の後、ミーティアは語り始めた。 「ゼシカさんはきっと、ククールさんのプティのたまごなんだって」 「ブティのたまご?」 聞いた事のない言葉に、ゼシカは首を傾げた。 「ブティのたまごというのはね。ピアノの先生に教えていただいたのだけど」 ミーティアは右手の指を少し曲げ、掌でたまごを持つ動作をする。 そして瞳を閉じ、子供に語りかけるような口調で話し始めた。 「プティのたまごは見えないたまご。ピアノで素敵な曲を弾く為に無くてはならない、だいじなたまご」 見えないたまごを持ったミーティアの右手が鍵盤の上に置かれ、軽やかにメロディを紡ぎ始めた。 「でもブティのたまごはとっても壊れやすいの。だいじにしていないと、すぐに壊れて消えてしまうの」 ミーティアはわざと指を延ばし、たまごの形を潰して曲を弾き続ける。 それは同じ曲のはずなのに、まるで違う曲に聞こえた。 「いつでも素敵な曲を弾けるように、プティのたまごはだいじにしましょう」 再びたまごを持つ形となった手で、ミーティアは曲を締めくくった。 「わたくし、ずっと見ておりましたのよ」 ミーティアはゼシカの方に向き直り、話し続けた。 「馬の姿で旅をしていた時、わたくしは皆さんの姿を後ろから見ておりました」 「姫様…」 「ククールさんが他の女性と歩かれているところをわたくしも何度か拝見したことがありますけど、いつもククールさんが先を歩かれて女性が後を追っている状態でした」 「そうなの?気にしたこともなかったわ」 ゼシカは目を丸くしてミーティアの話に耳を傾ける。 「今度はメラを我慢して、気をつけて御覧になるといいわ」 「今度って…。あんまり何度も見たくは無いんだけど」 苦笑するゼシカを見てミーティアはクスクスと笑った。 「でもね。ゼシカさんだけは違っていたの」 「えっ?」 「いつの頃からか、ククールさんはいつもゼシカさんの左側にいらっしゃるようになりました。歩く時も、戦っている時も。何故だかわかります?」 ゼシカは首を横に振る。 これも気にしたことがなかった。そして、何故だかも分からなかった。 「ククールさんは剣を左手でお使いになりますからね」 「!!」 ハッとするゼシカを見て、ミーティアは微笑んだ。 「ククールさんはゼシカさんの騎士ですよ」 「…あ…!」 ゼシカの脳裏に、ククールが幾度となく言っていた言葉が鮮やかに蘇る。 「ほ…本当…だったのね…あの言葉……」 途切れる言葉とは対照的に、ゼシカの瞳からはとめどない涙が溢れていた。 (…バカね……私…ほんとに……) 涙は雪解けの清流のように清々しく、ゼシカの心を潤していった。 「そしてゼシカさんはプティのたまごなの」 暫しの沈黙の後、ミーティアは再び語り始めた。 「とっても壊れやすい、でも失ってはいけない、だいじなだいじなプティのたまご」 ゼシカは溢れる涙をハンカチで拭う。 「ククールさんは、この先ゼシカさんとどう接して行けばいいのかをじっくり考えているのだと思うの」 ミーティアはピアノの椅子から立ち上がり、ゼシカの側に座り直した。 「竜の試練が終わる時を、わたくしとっても楽しみにしてますのよ」 やや冷めたであろう卓上のお茶をミーティアは口にする。 「エイトのことももちろんですけど、終えた時に皆さんがどう変わられるのかが、とっても楽しみ」 微笑みながら言うミーティアに、ゼシカも釣られて笑みを見せた。 どうにも涙が止まらないので泣き笑いの状態ではあったが。 「私も、楽しみになってきたかも…」 照れ笑いをするゼシカを見て、ミーティアは満足げに微笑んだ。 翌日。 何度目かの竜の試練を受ける為に、一行は竜神族の里から天の祭壇を目指していた。 エイトを先頭に、いつも通りの陣形で歩を進める。 (ほんと…ミーティア姫の言っていた通りだわ) ゼシカは自分の左側を付かず離れずの距離で歩くククールを見て、ミーティアの観察力に脱帽した。 移動中の何度目かの戦闘の後、ゼシカは試しにククールの左側に立ってみた。すると…。 「どうしたゼシカ?」 歩き始めてすぐククールに問われてしまった。 「えっ?別にどうもしないけど、何?」 ククールのあまりの反応の早さに驚いてしまったゼシカは、つとめて何でもないフリを装う。 「わりぃけど、そっちにいられるとなんか調子狂っちまう。いつも通りにこっちを歩いてくれよ」 そう言いながらククールはゼシカの肩に手を添え、ゼシカを自分の右側に移動させた。 「いつも通り…ね」 ゼシカは満足げに「いつも通り」という言葉を噛み締めた。嬉しさのあまり笑みがこぼれる。 「うふふ」 「なっ…何だよ?」 「何でもなーい」 ゼシカはクスクスと笑いながら再び歩き始めた。 「ミーティア姫にね、昨日言われたの」 歩きながらゼシカはククールに語り始めた。 「姫様が言うには、私はククールのブティのたまごなんだって」 ミーティアの話がすっかりお気に入りになってしまったゼシカは、ニコニコしながら得意げに話す。 それを聞いたククールは神妙な表情を浮かべ、沈黙してしまった。 (「何だそれ?」って聞いてくる?それともこのまま?どちらにしても、この話は姫様と私の秘密だけどね。ふふ…) 横目でククールの様子を観察しながら、ゼシカはその反応を楽しむつもりだった。 それで終わらせるつもりだったのだが……。 「参ったな…。姫様も上手い例えをするもんだ」 ククールはそう言いながら、右手で髪をぐしゃぐしゃとかき回した。 「えっ……」 今何て言った?と驚いてゼシカがククールを見やると、手に隠れていてその表情は伺えなかったが、耳が真っ赤になっていた。 (まさか……!!) 絶句するゼシカの顔は既に真っ赤に染まってしまっていた。 ククールは暫くの間黙っていたが、やがてゆっくりと話し始めた。 「それ…さ。ガキの頃、修道院でオルガンやらされた時に言われた…」 「うそ……知って…たん…だ」 動揺したゼシカはその一言を絞り出すのがやっとだった。 「プティのたまごは素敵な曲を弾く為に無くてはならない、壊れやすいだいじなたまご……だろ?」 こんな展開になろうとは、ミーティアも予想してはいなかっただろう。 運命の女神の気まぐれにも程があるというものだ。 「おーい、ゼシカ!ククール!ちょっと間隔あけすぎてるよ!!」 はるか前方からエイトが大声で呼び掛けてきた。 ゼシカとククールはハッとしてエイトを見、照れ笑いを交わした後に駆け出した。 「僕のわがままにみんなを付き合わせて悪いと思ってるけど、もう少しだけ頼むね」 済まなそうに言うエイトに、追い付いたククールはいつもの調子で応えた。 「おいおい、勘違いすんなよ。オレはお前の為に来てるんじゃねぇぜ?」 唖然とする三人にククールはにやりと笑って言い放った。 「オレがやりたいから来てるんだ。こんな機会、滅多にないだろ?」 「ククールらしい言い方でげすな」 そう言ってヤンガスが笑ったのを皮切りに、全員はその場で笑い出した。 「あとは、そうだな……これから素敵な曲を弾く為、かな」 「はぁ?」 ククールの言葉を受けて再び唖然とするエイトとヤンガスの脇で、ゼシカは一瞬驚いた後に微笑んだ。 さっきまでミーティアとの秘密の話の中の言葉だったはずのものが、いつの間にかククールとの秘密の言葉になっていた。 そういうのも、妙に心地のいいものだった。 いつもの青空が、より青く見えたのは気のせいだろうか。 水晶のように輝く不思議な階段を上りながら、ゼシカは思う。 これは、みんなの未来へと繋がる階段だ。 巨大な竜の頭蓋骨をくぐり抜けるところでククールは先に階段を数段飛び下り、振り向いた。 「お手をどうぞ、マイハニー」 「……バカ!」 そう言いながらもゼシカは、差し出されたククールの手に自らの手を委ねる。 見えないたまごの存在をその手に感じながら。 そして再びいつも通りの位置へと二人は戻る。 いつの間にか当たり前になっていた位置へ……。 一行はようやく頂上へと辿り着いた。 「みんな、今日もよろしく」 エイトが振り返り言うと、三人は不敵な笑みを浮かべて無言で頷く。 それは今まで幾度となく繰り返されてきた、強敵を前にした時の四人の英雄たちの儀式のようなものだった。 「さあ!行こうぜ!」 ククールの号令がその沈黙を破り、今日もまた天の祭壇の扉が開かれた。 ~ 終 ~
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ここまで心底驚いたような顔しなくても、いいと思うの。 『悩んでることがあるのなら、私に話して』 これって、そんなに珍しい言葉じゃないわよね。ククールがどれだけ私のことを子供だと思ってるか、改めて思い知らされるわ。 でも引き下がらないわよ。仲間が何かに悩んでるって気づいたのに、知らないフリなんて絶対にしないんだから。 本当に自分が恥ずかしいわ。 暗黒神に操られてからずっと、私一人が辛いような顔をしてた。 ククールは私にずっと優しくしてくれてた。 泣き言も全部聞いてくれて、体調も気遣ってくれて、いろんなことから庇ってくれた。 今日だって先回りして、ラジュさんたちにチェルスの死の理由を説明してくれた。私がそのことで辛い思いをしないようにって。 私のこと、ずっと守ってくれてた。 そして私はそのことに甘え続けてきた。 だから気づかなかったのよ、私がこの頃感じていた不安の理由。 ククールがどこかに消えて、いなくなってしまうんじゃないかって怖かった。 だけどそれは自分の心が弱いからだと思い込んでた。ククールに頼りすぎてるから、彼がいなくなってしまうことを恐れてるだけだって。だからチェルスのことからも逃げずに、しっかりしようと思った。 自分のことしか考えてなかったんだわ。 今だって、ククールを心配して探しに来たんじゃない。目を覚ましたらククールの姿が見えなくて、おまけにアークデーモンに見張られてるみたいで私が心細くなったから、こうして起き出してきちゃったのよ。 そしてここでククールの姿を見つけて、その様子を見ていてやっと気づけた。彼が何かに悩んでイライラしてるってことに。 だから私までつられて不安になってたんだって。 ククールが私をあてにしてくれない事を不満に思うのは間違ってた。 子供扱いされて当たり前よ。悩みなんて打ち明けられるわけないじゃない。こんな自分のことで精一杯の私なんかに。 ククールは考え込んじゃって、何も言ってくれない。 いつだってポーカーフェイスで、自分で見せてもいいと思ってる部分しか見せてくれない人だから。 文句が多いようで、本当に辛いことは口に出してくれない。自分の中で処理してしまおうとする。 そりゃあ私は頼りにならないかもしれないけど、信じてもらえてないのかと思うと、寂しくて悲しくなる。 「・・・自分でも、どう解釈すればいいかわかってねえし、かなり回りくどい話し方になると思うけど・・・短気おこさずに聞いてくれるか?」 ククールのその口調から、何だか大変そうな話だってことは伝わる。だけど私に話してくれるのよね? でも私ってそんなに短気に見えるの? まあいいわ、今は話を聞くのが先よ。私は無言で頷いた。 「オレ、蘇生呪文習得したかもしれない」 ・・・蘇生呪文って、ザオラル? そんなのずっと前から使えてたわよね? でも今更、意味もなくそんなこと言うとは思えない。・・・ということは、違う呪文? 「まさか、ザオリク?」 自分で口に出しておいて、バカなこと言ったと思った。 だってザオリクって完全死者蘇生呪文よ? 何百年も前、それこそ賢者の時代には使える人もいたって書いてある本はあるけど、半分おとぎ話のようなもので、そんな呪文が本当にあったなんて信じてる人、多分いないわ。 死んでしまった人が生き返ったりするはずないじゃない。そんな魔法が本当にあるなら、誰も大切な人を失って悲しい思いすることも無いのに・・・。 「さすがゼシカ、知ってたか。話が早くて助かった」 なのに、ククールはあっさりと私の言葉を肯定した。 私は今の話をどう受け取っていいのか、わからない。 「・・・やっぱり、信じられないか?」 困ったような、寂しそうなククールの声。 私は慌てて首を横に振る。 「信じるわよ、決まってるじゃない」 ククールは涼しい顔して嘘つくし、軽口ばっかり叩いてるけど、こんなことで嘘や冗談は言わない。 命が失われる痛みは、誰よりもよく知っている人だから。 だったら、どんなに信じられない話でも、信じるしかないわ。 不意に手をとられた。あんまりスムーズな動きなんで、何をするつもりなのか疑問に思う 間もなく、顔の位置まで上げられる。 そしてククールの唇が、私の手の甲へと当てられた。 一気にその部分に全神経が集中する。身体が固まってしまう。 「ありがとな、ゼシカ」 その声も瞳も穏やかで、下心なんて微塵も感じさせない。 ククールは、ただ感謝の意を示しただけなのよね。やり方がキザってだけで。 暗くて良かった。きっと私、赤くなっちゃってると思う。この程度のことで動揺してるのには気づかれたくないわ。 「で、ここからが困ったとこなんだけど、どうやら、その呪文は使えないらしい。唱えられないんだ」 話が続いてるんだけど、手をとられたままなことが気になって集中して聞けない。 こんなことじゃダメだわ。自分から話してって言っておいて失礼よ。 「唱えられないって、使ってみたことないの?」 確かに新しい呪文が使えるようになった時って感覚でわかるけど、大抵の場合は覚えた魔法は使ってみて、威力や効果を確かめてみる。 ああ、でも死者蘇生呪文ともなると、そう簡単に試してみるなんて出来ないわよね。他の呪文なら実験台になってあげてもいいけど、ザオリクの場合は死なないといけないから、ちょっと無理だわ。 ククールを信じないわけじゃないけど、ザオリクが伝えられてるような完全な蘇生呪文じゃなかったら困るもの。 「もちろん使ってみようとしたさ。でも出来なかった。さっき唱えられないって言ったけど、そういうレベルじゃないんだ。その言葉自体、口に出せない。呪文として唱えようとせずに普通に言おうとしても、喉にひっかかって声にならないんだ」 ・・・言葉の意味がわからない。 私だって当然ザオリクなんて使えないけど、声に出すくらいは出来る。 「それさえ無ければ、自分の願望から、ありもしない呪文を覚えたような思い込みに囚われたんだって解釈で済むんだが、声にも出せないなんて不可解すぎるんだよな。そんな話、聞いたことないしな」 私も聞いたことないわ。魔法に関する本はそれなりに読んできたつもりだけど、似た話すら見たことがない。 「そのくせ、何か魔法を使おうとすると、頭の中でその言葉が鳴り響きやがる。オレの使う呪文は博打性の強いのが多いから、呪文を唱える時に集中できないのは迷惑以外の何ものでもない。 初めは何か耳鳴りがする位にしか思ってなかったけど、段々頭の中の声がでかくなってきやがった。特にザオラル使う時なんて最低だな。ついうっかりザオ・・・」 ククールが顔をしかめる。さっき言ってたように言葉が喉につかえたみたい。 「・・・一応は、あてにならない呪文に頼って、使えない魔法を覚えたと思い込むほど落ちぶれちゃいないつもりだから、何かあるとは思うんだが、それが何かはわからない。ホント、ムカつくんだよな」 軽い調子で話してるけど、明らかにイライラしてるのがわかる。 それなのに私、つい思ったことを口に出してしまった。 「ククールって、賢者みたいよね」 ククールは面食らった顔して私を見る。 どうして私って、こうなんだろう。思った次の瞬間には、もう言葉にしてるのよ。 「だって普通、僧侶がルーラやマホカンタ覚えたりしないじゃない。その上、ザオリクでしょう? だから、ちょっとそう思っちゃったのよ」 慌てて言い訳めいたことを言ってしまう。 「確かに修道院でもルーラ使いは変わり種とは言われてたけど、オディロ院長だって使えてたぜ? 僧侶だからって絶対使えないってもんじゃねえんだろ」 「だって、オディロ院長は賢者の末裔じゃないの」 ・・・何だろう、今の言葉。自分で言ったことなのに、何かとても重要なことのような気がする。ククールも同じように感じたみたい。黙り込んで何か考えている。 でもククールはその考えを振り払うように頭を振って、いつもの調子に戻った。 「まあ、あれだ。オレが言いたかったのは、その言葉のせいで呪文を唱える時の集中力が落ちてるってことだ。だから回復のタイミングが遅れたりして、皆を危険に晒すかもしれない。 一応真面目にやってはいるんだが、そのことを踏まえてオレのことはあんまり当てにしないでほしい。 ほんとはもっと早く話しておくべきだったんだろうけど、例の言葉を使わずにどうやって説明するか考えてて遅くなった。悪かったよ。ゼシカが博識で助かった。エイトたちに話す時にも補足してくれると助かる」 ・・・ククールは本当に強い・・・。もっと早く話すべきだったって言葉は、それなりの時間、一人で抱え込んでたって意味になる。なのに全然気づかせてくれなかった。気づけなかった私が未熟だっただけかもしれないんだけど・・・。 それに、私なんてついさっきまで、ククールが私をあてにしてくれないことにスネてたのに、こんなにあっさりと『自分をあてにするな』なんて言い切っちゃう。誰に何と思われても揺るがない自分を持ってる人なんだ。 「私に、何か出来ることある?」 ククールが私にしてくれたようには出来ないかもしれない。でも、どんな小さなことでもいい。力になりたい。 再び手を持ち上げられて口づけられた。今度は指先。またまた私は硬直してしまう。 どうしてこの人、こんなこと恥ずかしげもなく出来るの? それとも意識しちゃう私がおかしいの? 「そうだな、ゼシカには楽しいこと考えててほしい」 ククールの言葉は意外すぎて、咄嗟に意味がわからなかった。 「身近な人間がイライラしてると、つられて不安になったりするだろ? オレの苛立ちがゼシカを巻き込んでたことは何となく気づいてた。 だから今度はゼシカが楽しい気分をオレに分けてほしい。杖を封印した後、何をするかとかがいいかな。キツい戦いの後の楽しみは必要だろ?」 ・・・ドルマゲスとの戦いの前、ククールは私に何度も言ってくれていた。敵討ちが終わった後のことを考えろって。あの時はその言葉の意味を考えなかった。だからドルマゲスを倒しても虚しさしか残らなくて。そして、そこを暗黒神に付け込まれた。 「うん、考えてみる」 また同じことを繰り返すわけにはいかない。せっかくの忠告、今度こそ無駄にしないわ。 「・・・今日は有意義だったな。何事も考えてないで実行してみるもんだ」 ククールの声から苛立った感じが消えている。話してみたことで、少しでも気が楽になってくれてると嬉しいんだけど。 「真面目な顔さえしてれば、ゼシカは結構ガードがユルいこともわかったし」 ・・・? 「さすがに二度目は『調子に乗るな!』って怒鳴られると思ったのに、振り払おうともしないんだもんな」 そして、三度目のキスが手の甲に贈られた。 私はやっと、からかわれてたんだって気づいた。深刻な話の最中に随分な余裕じゃないの! 「離してよ、バカ!」 私はククールの手を振り払う。ククールはいかにも可笑しそうに笑ってる。 まったく! どこまで本気で、どこまで冗談なのかサッパリわかんないわ。 ・・・でもいい、このくらいなら。真剣な話の後ほど、こうやって軽口でごまかそうとするんだって、知ってるんだから。いつまでも、その手にはのらないわよ。 それにちょっと考えたの。戦いが終わった後の楽しいこと。 いろんな所を旅してきたけど、戦うことに精一杯で、ゆっくり町を歩いたり、キレイな景色を眺めたりなんて、ほとんど出来なかった。 だから皆でゆっくりと世界を回りたい。 船に乗って地図にない島を探したりするの。そう思うと本当に楽しい気持ちになってきた。 ・・・さっきのことは許してあげるから、その時にはククールも一緒に来てね。 そうしたら、どんな辛い戦いでも、私きっと勝てる気がする。 <終> 強さ-前編
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宿屋。 夜まで休むの時間、ゼシカとククールの二人だけがそこに居た。 二人は机を挟んで呪文書に目を通していた。 おもむろにゼシカが口を開く。 「ククールってさ・・・」 「ん~?」 間の抜けたような声でククールは返事を返す。 ゼシカは次の言葉を言わないまま、じっと雑誌を持ったククールの手を見つめる。 その視線に気付いたククールは、ぱたんと呪文書を閉じ、身を乗り出した。 「何?」 「・・・手、おっきいよね」 「手?」 「うん。だって、ほら」 ゼシカはククールの手をとると、自分の手と合わせた。 「こんなに違うよ?」 ゼシカの指はククールの指の第一関節くらいまでしかなかった。 確かに、ククールの手は大きい。 大きいというか、前まで弓術をしていたせいもあって、指が長いのだ。 手だけ見るとよくサルの手とからかわれ、昔は悩みの種になったものだ・・・ 「あたし、手が大きい人、好きなんだよね」 「・・・ふ~ん」 「あたしの手ってさ。何か不揃いなんだよね。指だけこんなに細くってさ・・・」 「いいじゃねーか。、ゼシカの手、好きだぜ?」 ゼシカがはっとしたように顔を上げる。 そこには頬杖をつきながら柔らかい顔でゼシカを見つめるククールが待っていた。 「そ、そんな・・・冗談やめてよ」 「冗談なんかじゃ、ないぜ?」 そっとゼシカの手をとる。 触れた瞬間、少しびくついた。 ゆっくりと手を撫でながら、指と指の間にそっと指を差し込んだ。 「あ・・・」 ゼシカの呟きも無視して、包み込むようにぎゅっと握る。 少し戸惑いながらも、ゼシカの指が握り返す。 「ゼシカの手、冷たくて気持ちいいぜ・・」 「ククールの手、あったかいね・・」 お互いの手の感触に、しばし意識を任せる。 まるで手から二人の心が伝わってくるようだった。
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諸君、私はククゼシが好きだ 諸君、私はククゼシが好きだ 諸君、私はククゼシが大好きだ 美男美女でお似合いな所が好きだ 頭一つ分ある身長差が好きだ ベクトルの違うプラコン同士なのが好きだ 息の合った漫才が好きだ 何よりもあの微妙な距離感が好きだ 空で 海で 大地で 町で 迷宮で この地上に存在するありとあらゆるククゼシが大好きだ さりげなくゼシカを庇っているククールが好きだ ゲモンの自爆からゼシカを庇った時など心がおどる ククールの内面をちゃんと理解してるゼシカが好きだ ベルガラックの兄妹対決のイベント後で突き放した発言をするククールに「それがあんたの本心じゃないくせに」と突っ込むゼシカなど胸がすくような気持ちだった 気が強くても、女の子らしい優しさがあるゼシカが好きだ ゴルドでマルチェロが去った時に、ククールに駆け寄る姿など感動すらおぼえる ヘコんでる時でも、他者への気遣いを忘れないククールなどもうたまらない 煉獄島脱獄時に、ゼシカの手を取ってカゴからおろしてやったのは最高だ EDでのトロデーン城で、ククールが女性を侍らせているのを ゼシカが怒りまくっていた時など絶頂すら覚える くっつきそうでくっつかない所が好きだ それなのに「結局くっつかなかったじゃないか」と言われるのはとてもとても悲しいものだ あそこまで絡みの描写があれば、準公式と解釈してもOKと思えるのが好きだ 「でもはっきりした描写はどこにもない」と言われるのは屈辱の極みだ 諸君 私はククゼシを 誰もが認める公式カップルの様なククゼシを望んでいる 諸君 私に付き従うククゼシ好きの諸君 君たちは一体何を望んでいる? 更なるククゼシを望むか 糞の様なククゼシを望むか? ケンカするほど仲が良くて、いざという時にはお互い息が合ってて、大人の色気と子供の初々しさを兼ね備えた、見てる方が恥ずかしくなるバカップルのようなククゼシを望むか? ククゼシ!! ククゼシ!! ククゼシ!! よろしい ならばククゼシだ だが、一年近くもククゼシスレが復活しない中でもう誰もこの二人に萌えてないんじゃないかという不安に耐え続けて来た我々には ただのククゼシではもはや足りない!! 大ククゼシを!! 一心不乱の大ククゼシを!! 我々はわずかに小数 ドラクエに恋愛描写は不要派に比べれば物の数ではない だが諸君は一騎当千のククゼシ萌えだと私は信じている ならば我らは諸君と私で総兵力100万と1人のあらゆる妄想力を駆使して、ククゼシの幸せな未来を作り上げる集団となる 我らを忘却の彼方へと追いやり、恋愛要素はキモいとほざく奴らを叩きのめそう 髪の毛をつかんで引きずり下ろし 眼(まなこ)をあけて思い出させよう 連中にDQ1だって、ローラ姫と結婚したことを思い出させてやる 連中にDQ5なんて、花嫁を選ぶイベントがあったことを思い出させてやる ククゼシには奴らの哲学では思いもよらない見てる方がじれったくなるような、はがゆさがある事を思い出させてやる 1000人のククゼシ萌えの集団で 世界をククゼシへの愛で埋め尽くしてやる 目標 DQ8を過去の作品を葬ろうとしてる連中 DQ8の新しい楽しみ方を教えます。一緒にククゼシ萌えしましょう作戦 状況を開始せよ 逝くぞ 諸君
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「おかしなくすり3」途中からの別パターンです。正直納得いってない出来だったので、当初「ククに余裕がありすぎる」という理由で没になった展開を元に再構築してみた。しつこくてすみません。自己満を喜んでいただけてるだけで本当に感謝。そしてどなたか続きを…ッ ☆☆☆ククールはピッタリと閉じ合わされたゼシカの膝を左右に強引に割った。ゼシカが混乱しつつも羞恥におののくのがわかる。何もかもが隠すことを許されず剥き出しで、男の視界に晒される。性感を得るのもはじめてなはずなのに、異常とも言えるほど濡れそぼっている身体の中心。ゼシカは足を広げられ、はじめてそれを実感させられた。卑猥な音すらさせて蠢くソコが、なぜこんなに濡れているのか理解できない。―――ただ、晒されたこの場所を意識した瞬間、欲望の根源をそこにはっきりと感じた。「―――ッッ!!!!ククール…ッッ!!!!」「触って、ちゃんとオレに教えて」すがる声は残酷に跳ね返される。体中を狂ったように駆ける欲に羞恥心が一瞬の抵抗を試みる、が。ゼシカが躊躇した時間はほとんどなかった。それほどに高められた性欲は強烈にゼシカを追い立てた。やがてブルブルと震える指先が自らの下半身に伸び、「なぜか」水を零したように濡れているその箇所に、下着の上からおそるおそる触れた。といっても、羽根が落ちるほどそっとであるが。湿った感触と冷たさがリアルに伝わり、ゼシカはわけがわからず困惑の極限に達する。「やっ、だ、ナニコレ、やだ、もう、わかんな…ッ!ねぇおねがいクク…わたし、ここ… ここが、……ッッ! ねぇおねが…おねがい…ッ、ククール…!!」ここに さわって、と。ハァハァと激しく繰り返される息の合間に囁かれたあからさまな「おねがい」。これだけの大きさを誇りながら桁外れに高い感度を擁し、中途半端に脱がされた上着から溢れんばかりに零れて主張している両の乳房は、ククールが散々施した愛撫によって濡れ、光り、硬く膨れて切なげに揺れている。片手は頭の横に突かれたククールの腕にからみ、もう片手は怯えるように自らの秘部に触れ。そして自分を蹂躙している男に、さらに淫らな行為をねだり…―――これだけの痴態をさらしても、ゼシカの表情は完全なる処女のそれだった。感じすぎる快楽を苦痛にすら感じ、顰められる眉。はじめての性感に戸惑い泣きぬれる瞳。開きっぱなしで、もはや喘ぎも唾液も飲み込むことのできない小さな口唇からは、何度 たすけて、と聞いただろう。常に指先はすがるようにククールにしがみつき。――――――今なら引き返せるぜククールの脳内をほんの刹那、そんな言葉がかすめた。――――――黙れその一言で、わずかに残っていた罪の意識を、ククールは完全に脳内から締め出す。ここまできて。ここまでしておいて、今さら引き返せるものか。ただの女じゃない。「ゼシカ」だ。歯止めなんか、きくわけがない。おかしくなってるのはゼシカだけじゃない。オレだってもう、狂いそうなんだ。普通じゃないんだ。オレも、ゼシカも。何かがおかしいんだ。だから…そんな免罪符が浮かんで、消えた。 ククールはゼシカの指先に自分の指を重ね、濡れそぼり透き通っている布の上から、柔らかくふくらむその中心に互いの指をグッと埋めた。「イヤァッ!!!」「おま…濡れすぎ…」ククールはゴクリと唾を飲み込みながら、口唇を歪めた。待っていたように泉がさらに湧き出すのがわかる。触れるのもはじめてのその場所に襲い来るはじめての感覚に、ゼシカは小さな頂点を何度も迎えてしまう。「ああっ!!!はっ…あっ、アッ、アッ…!!!!」布の隙間から指を忍び込ませ直接触れるが、もうゼシカにはそんなことを意識している余裕などまったくない。ククールはもはや邪魔なだけの下着を思わず力任せに破り取ってしまった。そこに再びゼシカ自身の指を触れさせると、ビクッと硬直する。「…ッ、………触れよ…好きなだけ」耳元で囁くとキツく閉じられた瞳から涙がこぼれた。それでも、拒否しない。白い指先はこわごわと赤くなった入口を行き来するだけだが、ゼシカ自身もククールも、それだけで十分すぎるほど興奮した。ククールの指が一向に動き出さないことに、ゼシカが再びねだる甘い声をあげる。「ねぇ…っ、クク、クク、も…ッ、おねがい、ククール、も…」「…オレ、も?」「こんなんじゃイヤ…ぜんぜん…たりな…」「…どうして、ほしい?」「さわって…」睦言を交わしながら徐々に身をかがめ、ククールはゼシカの口唇をふさいだ。指先は、望みどおりに奥深くへと侵入しながら。蠢く内壁は狭く、それでも生まれてはじめての異物を取り込もうと貪欲に収縮を繰り返す。中を探りながらすでに主張している突起も嬲りその都度、ふさがれた口唇の間でゼシカが喘ぎを押し殺すのがわかる。エロいキス。はじめてのくせになんて妖艶に男を誘うエロい舌。無意識のくせになんてエロい。ククールは自分がもう完全に彼女の虜になっていることを自覚した。こんなゼシカを誰が知るだろうか?オレだけだ。この世でオレだけが知っている淫乱なゼシカの正体。絶対に、誰にも教えない。他の男になんて死んでも見せるものか。今夜、オレの前でだけ、その本性をすべてさらけ出せばいい。 指を3本にまで増やして突き上げながら、顔をわずかに離して溶けきっている表情をうかがう。「…ゼシカ」「はぁ…ぅん、あん、あ…ん、ククール…」「ゼシカ…」その無垢で淫乱なかわいい顔に、逆らえず吸い込まれるようにまた口づけ。「足りる…?」「んふ、ん、クク、あ、アッ、あ…」ゼシカは喘ぎながら、首をプルプルと小さく横に振る。「たりな…ッ、だめ、まだ、わたし…こんなんじゃ、たりないの…っっ!!」どうしたらいいの、と問う瞳は、際限のない快楽への恐怖。与えられても与えられても、まったく満たされることのない耐えられないほどの疼き。今、ゼシカにとって自分を助けてくれるのはククールだけだった。ククールなら私を救ってくれる。絶対に。だから、羞恥など投げ捨てて心のままに縋りつける。――――――どうにかして、と「ククール…おねがい…」ゼシカは泣いた。満たされない欲望に対する徹底的なナニカが欲しくて。「も…っと…」「…もっと?」「もっと…して…」「…なにを?」「わか、んな…ッ」いじわるしないで。そんなめでみつめないで。「もっと、して…もっと、もっと、もっと…」――――――ククールの好きなようにしてそれがきっとわたしのよくぼうでもあるから次の瞬間、ゼシカの両足は高く持ち上げられさらに開かされ、それにゼシカが身構える間もなくあまりにも性急に、ククールは潤みきったその場所に己を一度に埋めた。尾を引くのは苦痛ではなく、むしろ苦痛に勝さる快感に喘ぐ高い悲鳴。優しさや気遣いのない激しい突き上げにも、ゼシカの身体は悦び、さらに もっと、と求めた。完全に箍のはずれたククールに、その囁きはまさに媚薬だった。今この瞬間、お互いが満たされるためだけに行われたこの行為が、どれほど罪深いものなのか。少なくとも男にはわかっていた。しかし、留まることなど、もう互いにできるはずもなかった。―――――自分の本当の気持ちに気づいてしまったから
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ククゼシをくくるの流れから も~ククール!だから変なとこ触らないでって言ってるでしょ!」 「だーーーかーーーらーーー、こんな状態で触れないって何度…」 「うそっ、確かに触ったわ!私の…その…、お…おし………、とにかく絶対触ったわよ!」 「あのな、こんなガチガチに括られてたら触りたくても触れないっての」 「触りたくても?ククール、やっぱり触りたいって思ってたのね?!」 「今のは物の例えだろ、例え!本気で触りたいとかじゃなくて……いや、そりゃまあちょっとは、 てかかなり、触りたいけど…とにかく触れないもんは触れないんだよっ」 「その動揺の仕方怪しすぎるわ。こんな状況だからこそますますククールしかありえないじゃない」 「はあ…。俺はとにかく触ってない。不可能だ」 「だっておし……り…の辺り…に、柔らかいものがっ」 「じゃあそれが本当に俺の手の感触なのか後でちゃんと確かめてくれよ」 「確かめる…?」 「この状況脱したらじっくりたっぷりゼシカに触れてやるよ。 それで本当にその感触が俺のと同じかゼシカ自身で判断しろよ」 「な…!ななな…何言ってるのよ!このっ、セクハラ僧侶ー!」
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暗い天井。 ふと目を覚まし初めに目に入ったのはそれだった。部屋の外からは波の音が聞こえる。 古代船を手に入れドルマゲスを追いエイト達一行は西の大陸を目指す航海の途中だった。夜になってしまったので錨を降ろし海上に留まっていたのだ。 夜明けにはまだ時間がある。何度か寝返りを打つが目が冴えてしまって眠ることが出来ない。 仕方なく起き上がりゼシカは甲板に出る。 海は穏やかで心地よい風がゼシカの頬をなで、解かれた髪を揺らした。 「あれ?まだ交替の時間じゃ・・・」 ふいに声を掛けられ振り返るとランタンを片手に間抜け面のエイトが立っていた。 「ゼシカか・・・ヤンガスかと思ったよ」 「あ、ごめんね」 「どうした?眠れないのか?」 「・・・うん」 「船、落ち着かない?あ、それともオレが起こした?」 「うぅん。違うの」 「夜風は冷えるから良くないよ?」 「・・・うん」 「・・・・・・」 どうも会話が続かない。ゼシカは黙って海を見つめている。 「ゼシカ、どうした?・・・オレで良ければ話を聞くよ」 「え・・・」 エイトの申し出に少し驚いたゼシカだったが、一瞬考えエイトになら自分の素直な気持ちを言える気がして、コクリと頷いた。 「・・・みんなには内緒にしてくれる?トロデ王にもミーティア姫にも言っちゃダメよ」 「うん」 ゼシカは躊躇いながらも話し始めた。 「・・・あのね、最初に会った時は嫌いだったの。なんて軽薄なヤツ、って思ったの。女好きだし、イカサマポーカーはするし。でも本当は心に傷を抱えてて・・・その事で悩んでるみたいだし、本当は優しいヤツだし・・・」 ゼシカは名前は言わなかったが、ククールの事であるのはエイトにも容易に想像がついた。 両手の指先を合わせモジモジしながらゼシカは話し続ける。 「イライラするのよ。アイツが女口説いてんのも私が口説かれるのも。・・・こう、胸の辺りがキュッて痛くなるの」 ゼシカは胸の辺りを両の手で押さえ襟元をクシャと掴んだ。そんな彼女をエイトは黙って見つめている。 「ごめん・・・なんだか変な話よね」 話が上手くまとまらない。「そんな事無いよ。ゼシカね場合とは違うけど・・・オレもその気持ちわかるような気がする」 「・・・え?」 驚くゼシカにエイトは優しく微笑みかけた。 そんなエイトの笑顔がなんだか眩しい。彼はこの気持ちが何だか知っていて、その気持ちに素直に向き合っているように見える。 「なんて・・・」 俯きつぶやく。 「なんて言うの・・・?」この気持ち。 アイツの事を考えるとイライラする、苦しくなる。でも同時に胸が暖かくなる。この気持ちの答えが知りたくてエイトの顔を見ると相変わらずの人懐こい笑顔で優しく肩を叩かれた。 「ゼシカ、本当はわかってんだろ?」 「・・・・・・」 そう言うとエイトはヤンガスとの交替の時間なのだろう、オヤスミと一言残し言ってしまった。 ゼシカは暫らくその後ろ姿を見送っていた。エイトは死んだ兄とどこか似ている。 そしてゼシカは思い出す。彼女をこんな気持ちにさせた一件を。 サーベルトが笑っている。その前には自分がいて、頻りにこれまでの旅の話を聞かせている。 サーベルトは何も言わずに唯笑っているだけ。 ゼシカは構わずに話を続ける。 兄さん、あのね・・・。 そこで目が覚めた。 目の前には焚き火があり、辺りはまだ暗い。 まだ眠れる、ともう一度目を閉じた時突然背後から声を掛けられた。 「ゼシカ!」 急に呼ばれたことに驚きぼんやりした頭が次第にハッキリしてきた。 振り返り声の主を認める。開口一番。 「ククール・・・アンタ何してんのよ」 ククールの態勢に怪訝そうに眉をひそめる。 ククールは脚を開いて座りゼシカはその胸に背中を預けて眠っていたようだ。 「まさか、アンタどさくさに紛れて・・・!」 殴ろうと拳を振り上げるがククールに適うはずもなくアッサリ止められてしまった。 「ストップストップ!なんか勘違いしてんだろ、お前」 「なにがよ?」 「・・・ったく、覚えてねーねか。オレ達モグラの落し穴に落ちたんだよ」 「・・・・・・」 そういえば、月影のハープを取り戻しにモグラのボスと戦って、その帰り道だったはず。 あまり記憶がハッキリしない。考え込んでいるゼシカを見兼ねてククールが続けた。 「ヤンガスのおっさんの重みでひびが入った地面にオレ達乗っかっちまったんだよ。で、この通り」 両手を広げてみせるククール。それを見ていたら、ある事に気が付いた。 四つん這いになりククールに詰め寄る。 「ほかの二人は?」 「はぐれた」 「・・・うそ・・・痛っ!・・・」 さらりと言ってのけるククールに言葉を失い呆然と座り込むと足首に痛みが走った。どうやら穴に落ちたときに怪我をしていたようだ。見ると足首に血が滲んでいる。 苦痛に顔を歪めているとククールの手が延びてきてゼシカの足首に触れた。 「血よ肉よ傷を塞げ・・・ベホイミ」 ククールの掌が緑色に光り出したかと思うとチラチラと消えてしまった。 「ありゃ、MP切れだ」 「え?私の傷なんか大丈夫なのに!アンタも怪我してたらどーすんのよ!」 ゼシカは怪我の有無を確かめるためにククールの体を触り始めた。 「怪我はないみたいね。足の方は大丈夫なの?」 心配そうに聞くゼシカに対してククールはニヤニヤしている。 「なに?なに笑ってんのよ?」 「ゼシカってばエッチだなぁ」 ゼシカの手はククールの胸の上に置かれていた。かぁーと顔が熱くなった。 「もうっ!バカ!」 堪らず笑いだすククールに自分の軽率さを呪った。 「いい加減笑いすぎよ!」「悪い悪い。ところで、足大丈夫か?」 「ん・・・大分痛みが引いたみたい。ありがと」 「いや、オレのMPがもう少し残ってれば完全に治してやれたんだが」 「大丈夫よ。こんな傷。それよりも、どうするの?出口探す?」 「いや・・・。今はヘタに動かずエイト達が来てくれるのを待った方がいい」 確かに怪我をしてまともに動けないゼシカとMP切れのククールでは魔物に襲われたとき明らかに不利だ。二人はその場に留まる事にした。 ゼシカはククールと少し離れた所で焚き火にあたっていた。 ククールは相変わらず壁に保たれ掛かり目を閉じている。 エイト達を待ってからどのくらいの時間がたっただろうか。外はきっと夜になっているだろう。 「くしゅっ・・・!」 「寒いのか?そういえば少し冷えてきたか。」 「大丈夫」 そう言ってゼシカは消えかかった焚き火にくべる物を探しだした。しかし、こんなモグラの穴の中ククールが集めた木の枝や根以外あるわけもなく、諦めて座り込んだ。 もうすぐ焚き火もきえるだろう。心なしかゼシカは震えているように見える。 「ゼシカ、こっち来いよ」「大丈夫よ」 それだけ言うとゼシカはプイとそっぽを向いてしまった。彼と出会ってから二ヵ月ほどしか経っていないため少々警戒心が働く。 「ゼシカ、寒いんだろ?なにもしねーから、こっち来いよ」 「・・・本当に?本当になにもしない?」 「しねーよ。いくらオレでもこんな状態で何かする程バカじゃねーよ」 それでもまだ疑いの眼差しで見ているゼシカに胸の前で十字を切って見せた。 「神に誓って・・・」 そこまで言うならと立ち上がり、まだ少し痛む足を引きずりチョコンと彼の左側に座る。 ククールは自らのマントを外しゼシカの肩に掛けてやりながら、まだ少し距離のあるゼシカの肩を引き寄せた。 「ちょっ・・・なにもしないって言ったじゃない!」「ちげーよ、しねーよ。・・・こうした方が暖かいだろ?」 「・・・・・・」 確かに暖かい。基本的に男女の体温の違いの所為だろう。 ゼシカは少し安心した。暫らく経ってもククールは何もして来なかったからだ。「・・・本当に何もしないんだ?」 「・・・誘ってんのか、拒否されてんのか、どっちなんだよ?」 「フフ、感心してんのよ」呆れ顔のククールを見てゼシカはクスクスと笑った。「少し、眠れよ」 「うん・・・」 こういうところの女の扱いは流石だと思う。体力の違いを気遣ってくれているのだ。ゼシカはそれに甘えて目を閉じる。 目の前に緑色の光が広がる。その光にゼシカは目を覚ますとエイトがにっこり微笑んでいた。 「・・・エイト」 ククールに抱えられて眠っていたゼシカは慌てて身を起こす。足に痛みが走る。「痛っ・・・」 「遅くなってゴメン。出口に近い所に居たから、ここまで来るのに時間掛かって」 言いながらエイトはゼシカの足にベホイミをかけている。 どうやら落し穴はアジトの奥に続いていたようだ。 エイトのかけてくれているベホイミの光を見ながら、アレ?と思う。目を覚ます前に感じた光もホイミ系のものだった。自分の足の治療は今行なわれている。 と、言うことは。振り返り立ち上がっているククールを見上げる。 「ククール!怪我してたの?」 そこに空かさずヤンガスが割り込む。 「そうなんでがすよ。ククールのヤツ右肩に・・・ガフッ!」 間髪入れずにヤンガスにボディブローが決まる。 「つまんねー事言ってんじゃねーよ」 腹を抱えてうずくまるヤンガスを見下ろし冷たく言い捨てる。 治療の終わったゼシカはククールの右肩に手を添える。 「本当に大丈夫なの?ねぇ?」 心配そうに顔を覗き込むとポンポンと軽く頭を叩かれた。 「ゼシカの足の傷に比べれば大した事ないよ。さ、帰ろうぜ」 そう言いさっさと先に行ってしまった。 礼を言いそびれて立ち尽くすゼシカの背をエイトは優しく押し先を促した。 「帰ろうか。ヤンガスも大丈夫か?」 「ゲボゲボ・・・大丈夫でかす。ククールの野郎・・・」 ククールに続いて三人は歩き出した。 後日、エイトに教えてもらった話によると、落し穴に落ちたのはゼシカ一人でククールは自ら穴に飛び込んだというのだ。 肩はその時に怪我したのだろう。エイト達が来てくれるのを待とうと言ったのは『動かない方がいい』ではなく『動けなかった』からだ。 自分を心配して後を追ってきてくれたククール。彼は自分が思うよりも軽薄な男ではないのかも知れない。ゼシカは思い出していた。トロデーン城で祈りを捧げていた姿、モグラのアジトでの彼のさり気ない優しさ。 エイトに言われなくても、きっとわかっていた。自分のこの気持ちはきっと・・・。 ひとつ息を吐いて空を見上げる。夜が明けるにはもう少し時間が掛かるだろう。ゼシカは部屋に戻り、もう一度眠る事にした。 ベッドに潜り込み何もない天井を見つめ考える。 兄の夢を。 最後に自分は何を言おうとしていたのだろう。兄は唯笑っていただけだった。 あの時自分が何を言おうとしていたかはわからない。でも、次は― 次に兄に会った時はきっと伝えられる。 この胸の気持ちを。 終
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何処となく様子のおかしいククールを、トロデ王とヤンガスに任せて、 エイトは林の中に足を踏み入れゼシカを捜した。 程無くして大樹の下に膝を抱えて座り込むゼシカを見つけ、 エイトはおそるおそる声を掛けた。 「…ゼシカ?」 ピク、と怯えたように細い肩が震えて、涙に濡れた顔が振り返った。 「…エイ、ト…」 しゃくりあげるように名前を呼ぶ声に耐え切れずに、 エイトは小走りでゼシカの前に駆け寄り、その肩を優しく支えるように触れる。 号泣という感じでは無く、 ポロポロと大粒の涙を零しながら静かにゼシカは泣いていた。 「どうしたの、ゼシカ?……ククールと、何か、あった?」 ククールの名前を出すことに躊躇いながらも、顔を覗き込むようにして、 出来るだけ静かな声で問い掛ける。 落ちて来る涙を手の甲で押さえながら、ゼシカが力無く横に首を振った。 「…何でも、ないの。何でも…」 自分に言い聞かせるような声でそう繰り返す様子に、エイトは軽く息を吐いた。 それからゼシカの背中をポン、と軽く叩いて その横に並ぶようにして地面に腰を下ろす。 「…わかったよ。じゃあ、ゼシカが泣き止むまでここにいるから」 柔らかく受け止めてくれるようなその台詞に、ゼシカは一度目を見開いたあと、 堪えきれなくなって嗚咽を零した。 「サーベルト兄さん…」 ゼシカの脳裏に忘れられない面影が過ぎる。 エイトの仕草や態度、言葉はサーベルト兄さんのものと良く似ていて、 時々ふと優しかった兄さんを思い出させる。 こんな時、あの人だったらどう言ってくれただろう。 自分はどうすれば良いのか、何て助言をくれるのだろう。 答えは出る筈も無い。 それでも、サーベルトのことも相俟ってゼシカは声をあげて泣いた。 「ゼシカが走っていっちまいましたが…何かあったでガスか?」 「これ。あまり仲間同士喧嘩しあうでない。 お前もエイトを見習ったらどうじゃ?」 膝を抱えるようにして黙り込む姿を見下ろして、 ヤンガスとトロデ王が好き好きに口にする言葉を、 ククールは黙り込んで聞いていた。 らしくないククールの様子に、二人は言葉を止め怪訝そうに顔を見合わせる。 「さては痴話喧嘩じゃな」 ズバリ、と言いたそうな仕草でトロデ王が短い指でククールを差して言い切る。 その横でヤンガスがその通りと言わんばかりに、無言でうんうん頷いている。 「……痴話喧嘩にもならねえんだよ」 一拍の間を置いて、ククールが力無く答えた後大袈裟に溜め息を零す。 その様子は明らかに落胆した色が含まれていて、 ヤンガスとトロデ王は再度顔を見合わせたあと、同じ方向に首を傾げた。 「何言ってるでやんすか。 何だかんだ言ってゼシカと仲良くやってるでがしょう?」 「そうじゃ、そうじゃ。ゼシカも最近では満更ではない様子ではないか」 息ピッタリな様子で話し掛けて来る二人を、 ククールは追い払うように顔の近くで手を振る。 「気の所為だよ。だいたいあいつは、エイトが好きなんだ」 その言葉に二人同時に驚き、目を見開いたあと顔を見合わせ、 トロデ王が何も言わず自分を指差し、 ヤンガスがそれに頷いて視線をククールに戻した。 「のう、ククール。ゼシカがそう言ったのか?」 トロデ王が小さい身体で一生懸命ククールの顔を覗き込みながら聞く。 「…直接言った訳じゃないけどな。 あの態度見てりゃあ誰だってわかるだろ」 首を振りながら投げ遣りにククールが答える。 その返答にトロデ王は首を傾げた。 「じゃが、わしらが見てる限りではゼシカはお前が好きそうじゃぞ?」 わしら、とトロデ王は横にいるヤンガスを指差し、 ヤンガスもそれに答えるようにコクコクと二度頷く。 「冗談!…オレはちゃんとゼシカに聞いたんだぜ? そしたらあいつ、何も言わずに逃げたんだよ」 先程ゼシカが逃げ込んだ林を指差して、 幾分怒ったような調子でククールは簡単に説明する。 トロデ王は怪訝そうに顔を顰め、助けるを求めるようにヤンガスを見た。 「アッシが思うに、ゼシカの姉ちゃんは恥ずかしかったんじゃないでげすか?」 トロデ王の跡を継ぐようにヤンガスが遠慮がちな口調で言う。 「馬鹿言え。恥ずかしいからって普通逃げるか?」 「逃げるじゃろ。女子なんてそんなもんじゃ。のう?」 同意を求めるようにトロデ王はヤンガスを見て、 ヤンガスもまたそれに頷いて見せた。 「ああ、もう。お前らと話してたら一人で悩んでるのが馬鹿みたいだぜ。 ちょっと行ってくる」 ククールは煩わしそうに手を横に振りながらも、 立ち上がりゼシカの後を追うように林の中へと駆けて行った。 ゼシカの口からしっかりとエイトが好きだと、 オレの気持ちには応えられないと言う返答が聞ければ、 すっぱり諦めも付くだろうと言う僅かな希望を胸に抱いて。 颯爽と林の中に姿を消してしまうククールの後ろ姿を、 満足げに見送ったあと、トロデ王が溜め息と共に呟きを零した。 「はあ…若いもんは羨ましいのう。 わしもあんな初々しい恋がしてみたいわい」 「おっさんはもう年だから無理だと思うでげすが」 「うるさい!お前だって充分なおっさんではないか」 「おっさんにおっさんって言われる筋合いはないでガスよ!」 以下延々と子供じみた仕草や言葉で、 ぎゃーぎゃーと言い合いをする二人とは少し離れた位置、 馬の姿に戻ったミーティアが、微笑ましげに見つめていた。 「……さっき、さ。あいつにいきなり聞かれたのよ。 エイトのことが好きなのか、って。…私、驚いちゃって…だって、あんな、 あいつのあんな真剣な顔、初めて見たし…」 エイトがゼシカを追いかけて林に入ってから数分後、漸く泣き止んだゼシカは、 時折戸惑うように言葉を止めながらも、先程のこと説明していた。 それを頷きながら真剣な表情で聞き入るエイト。 「…あいつ、きっと何か誤解してるのよ。 私がエイトを好きだ、なんて…」 そうでしょう?と同意を求める声を掛けようと顔をあげて、 エイトを見た所でゼシカは言葉に詰まった。 動作に合わせて揺れる髪先を指で弄りながら、顔を僅かに伏せる。 「ごめんなさい。 別にあなたのことが嫌いだって言ってるんじゃないの…寧ろ、私は…」 ゼシカが言葉を切り、恥ずかしそうにエイトを見つめる。 何を言いたいのか察しかねて、 エイトは首を軽く傾げてゼシカを見つめ返した。 その時、遅れてゼシカを追って来たククールが 意図せずに近くの茂みをガサリと揺らした。 ククールの視界には何か言いたげに見つめあう二人の姿が映る。 チクリ、とククールの胸に針で刺されたような痛みが走る。 まさか…と思いながらも、 思わず立ち止まってその様子をジッと眺めてしまう。 「私は、エイトのこと好きよ」 数秒の沈黙のあと、ゼシカは重い口を開いた。 漸く何を言わんとしているかわかったエイトは、表情を緩めて頷きを返す。 「僕もゼシカのことは好きだよ」 その台詞にゼシカの顔も嬉しそうに綻ぶ。 一連の出来事をタイミング悪く見てしまったククールは 絶望した気持ちでその場に立ち竦んだ。 「………失恋決定、じゃねえか…。馬鹿馬鹿しくて、泣けもしねえよ…」 痛む胸を押さえるように胸元の服をギュッと掌の中に握り込んで、 掠れた声で小さく小さく呟く。 「雨でも降れば、良いのに…」 期待を篭めて見あげた空は、それを裏切るように眩しい位の晴天だった。 太陽の光が反射してククールの蒼い瞳に突き刺さる。 泣きそうに顔を歪めて、 ククールは何時までもその場所に一人立ち竦んでいた。 un titled1 un titled3 un titled4
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体に突き刺さるような寒さから、ククールは目を覚ました。 ぶるっ、と身震いする。重い身体を起こし、あたりを見回す。 「………?」 知らない部屋。 自分が使っている物を含めてベッドが四つ並んでいる。右隣にゼシカ、左隣にヤンガス、その向こうにはエイトが眠っている。 けたたましくガラスを叩く風。窓の外には見慣れぬ雪の嵐、薄明るい夜。 まだハッキリしない頭で自分の置かれた状況を考える。 ―――確か、オレたちは黒犬を追って北に向かっていて… 「つ…ッ!」 身じろぎすると、打撲のような鈍い痛みが全身を襲った。瞬時に記憶が蘇る。轟音と共に、視界に迫る圧倒的な白。ゼシカの悲鳴。 「雪崩が…!」 ベッドから飛び降りて、ゼシカを見る。 ゼシカは毛布にくるまって、すやすやと安らかな寝息を立てていた。 ククールはゼシカを起こさないように毛布を剥いだ。 顔に色が無いのが気になるが、呼吸は落ち着いている。とりたてて大きな外傷はなさそうだった。 ホッと安堵の息をついて、一応他の二人の様子も見る。 いつもどおり必要以上に元気に寝ている凸凹コンビに少しうんざりして、寝ていたベッドにひとまず腰を下ろした。 「それにしても…ここはどこだ?」 あらためて周囲を検分する。古いけれど綺麗にしてある、人の手が行き届いた小さな部屋。 悪い気配は感じなかった。 誰か―――あの時先に行ったトロデ王あたりが、雪崩巻き込まれた自分たちを、近くにあった山小屋に運んだというところだろうか。 ククールがそんな事を考えていると、寝ている筈のゼシカが突然大声をだした。 「いい加減にしなさいよ…ッ!ククールッ!!」 いきなり名前を叫ばれて、ぎょっとする。おそるおそる声をかけてみる。 「ゼシカ…?」 返事は無い。 「どーゆー夢見てんだよ…。」 何もしていないのに、後ろめたさを感じるのは、日頃の行いのせいだろうか。冷や汗がでる。 「夢にまで見てくれるなんて、男冥利につきるね…。」 ククールはゼシカの寝顔を眺め、頭をそっと撫でた。 「う…ん…寒い…ククール…」 ゼシカは仰向けに寝返りを打って、言葉を洩らした。 続けざまに名前を呼ばれてドキリとする。ささやかな嬉しさで、心が小さく波立つ。 「寒いって言っているし、身体で暖めてやろうかなぁ。」 下らない発想は言葉に出して言うと、急に現実味を帯びてきた。 ゼシカは本当に寒そうだった。むき出しの肩は鳥肌が立ち、吐く息は白い。 ゼシカを暖める為に今自分が出来ること---抱いてやる他に何がある? 上向かれた、色の引いた唇は、乾燥して潤いを求めるようにほんの少しだけ開かれている。 しどけなく乱れた服からのぞく、肌理の細かい白い胸。 幸いにも“凸凹兄弟仁義”たちはぐーすか寝ている。 自分の腕の中でうっとりと目覚めるゼシカ。あわよくばキスして服を脱がせて… ---いや、それは駄目だろう!とククールは自分の不埒な想像に自らツッコミを入れた。 そう。ただ抱いて寝てやるだけでいいのだ。 ククールが躊躇うのは、ゼシカに対して自分の理性がどこまで働くのか、自信が無いからだった。 葛藤しながらゼシカの顔をみると、先ほどより更に色を失っている様に見える。触れてみると氷の様な冷たさだった。 あーもう、いい!どうなろうと必ず幸せにしてやるぜ、と立ち上がり、上着を脱いだ。 そのとき、カチャリと部屋のドアノブが音を立てた。 ドアが開き、見知らぬ小さな老婦人と、大きな犬が入ってきた。 ククールは上着を脱いだ姿勢のまま、硬直した。 「お目覚めですかな旅の人。」 「え…、あ、はい。」 なんとか返事をする。 「良かったです。上に来て温かい薬湯でも飲みなされ。」 「あ、でもゼシカ…連れの女の子が寒がっていて…」 「おお、そうでしたか。バフや、暖めておやり」 老婦人の命令に従って、犬がゼシカの横に寝そべった。犬はふかふかで、いかにも暖かそうだった。 「………。」 諦めたククールは老婦人の後ろに従いつつも、名残惜しく、犬に埋もれるゼシカを顧みる。 犬が白い目で見ているような気がした。 ククールは恨みと感謝のないまぜになった心境で犬を睨み返して、部屋を出た。 部屋のドアがしまるのと同時にゼシカの目が開いた。 「バカ…。根性無し…。」 ゼシカは閉ざされた扉と犬を見て、口を尖らせて小さく呟いた。